変動金利と教育費のダブルパンチ…世帯年収900万の4人家族が陥った「息の詰まる」赤字地獄

「また今月も、カードの引き落とし額が給与口座の残高を超えている……」

埼玉県内のマンションのリビングで、スマートフォンを見つめる加奈さん(40歳・事務パート)は、小さくため息をついた。夫の隆史さん(42歳・物流IT企業の中間管理職)は、ソファで疲れたように目を閉じている。

世帯年収は約900万円。手取りにすれば月に約55万円ほどの収入がある。決して贅沢をしているつもりはない。週末に家族4人で外食に行き、年に1回は国内旅行を楽しむ。そんな「ごく普通の幸せ」が続くはずだった。しかし、ここ数年でじわじわと家計をむしばんでいた出費の波は、気づけば彼らの足元を完全にすくっていた。

狂い始めた計算。月1万5000円の金利上昇がもたらした焦燥

8年前、長男の小学校入学を機に、都心まで電車で40分ほどの立地に4LDKの中古マンションを4,500万円で購入した。当時の金利は底値圏と言われ、迷わず変動金利を選択した。月々の返済額は約11万円。隆史さんの当時の手取りだけでも十分にやっていける額だった。

しかし、状況は一変する。昨今の金利上昇のニュースが現実のものとなり、彼らの住宅ローンにもその波が押し寄せたのだ。

「銀行からハガキが来て、次の更新から返済額が月に1万5000円上がることになったの。年間で18万円の負担増よ。冗談じゃないわ」

加奈さんの言葉に、隆史さんは顔をしかめた。

「仕方ないだろ、金利が上がるのは。俺のせいじゃない。会社だって物価高でコストがかさんで、今年の冬のボーナスは期待できないって言われてるんだから」

「じゃあ、どこからその1万5000円を捻出するのよ。食費だって、スーパーに行くたびにため息が出るくらい高くなってるのに」

2人の間には、以前はなかったとげとげしい空気が流れる。かつては週末になると、隆史さんの趣味であるキャンプに家族で出かけていた。しかし、ガソリン代やキャンプ場の利用料、道具のメンテナンス費用などが重荷になり、この1年、一度もテントを開いていない。

「子どもの可能性は潰したくない」教育費という名の聖域

家計を圧迫している最大の要因は、住宅ローンだけではない。中学1年生の長男(13歳)と、小学5年生の長女(10歳)にかかる教育費だ。

長男は、高校受験を見据えて駅前の大手学習塾に通い始めた。通常の月謝は4万円ほどだが、夏期講習や冬季講習、さらには「志望校別特訓」などのオプション費用が容赦なくのしかかる。長女もまた、小さい頃から憧れていた新体操のクラブチームに所属しており、月謝と遠征費、衣装代などで月に2万5000円が飛んでいく。

「長男の夏期講習代、10万円の請求が来たわよ。どうするの?」

加奈さんが家計簿を突きつけると、隆史さんは頭を抱えた。

「10万……。でも、あいつが『どうしてもあの高校に行きたいから頑張りたい』って言ってるんだ。親として、お金がないから諦めろなんて言えないだろう」

「それは私も同じよ。でも、現実問題としてお金がないの。私のパートのシフトを増やすしかないけど、これ以上は体力的に厳しい……」

教育費は、親にとって「聖域」になりがちだ。自分たちの生活を切り詰めてでも、子どもには最良の環境を与えたい。その切実な親心が、皮肉にも家計の首を真綿で締めるように苦しめている。気づけば、夫婦の貯金は切り崩す一方で、老後に向けた資産形成など考える余裕もなくなっていた。

FPは指摘する「世帯年収900万」が最も陥りやすい罠

この夫婦のように、一定の収入があるにもかかわらず赤字に転落してしまうケースについて、ファイナンシャルプランナー(FP)はこう警鐘を鳴らす。

「総務省の『家計調査』によると、4人家族の教育費の平均負担は年々増加傾向にあります。特に世帯年収が800万〜1000万円の中間層は、『自分たちはそれなりに稼いでいる』という自負があるため、無意識のうちに生活水準が高止まりしやすいのです」

FPは、彼らの家計の致命的なポイントを指摘する。

「この層は、住宅も『少し背伸びして』良いものを買い、子どもの教育にも『周囲と同じように』お金をかけます。しかし、物価高による基礎支出の上昇と、変動金利の上昇、そして教育費の高騰という3つの波が同時に押し寄せた現在、かつての『中流の暮らし』を維持することは極めて困難です。厚生労働省の『国民生活基礎調査』でも、生活が苦しいと感じる世帯の割合は高い水準にありますが、実はこの年収帯の世帯ほど、見栄や世間体を気にしてSOSを出せず、水面下で限界を迎えているケースが多いのです」

隆史さんと加奈さんもまた、周囲には「順風満帆な家族」として振る舞っている。ママ友とのランチ会や、同僚との飲み会では、お金に困っている素振りなど絶対に見せない。しかし、家に帰れば、テーブルの上に置かれたクレジットカードの明細書と、減っていく一方の預金残高に怯える日々だ。

「このままじゃ、長男が大学に行く頃には自己破産よ……」

つぶやく加奈さんの声は、静まり返った深夜のリビングにむなしく響いた。明日もまた、息のつまるような節約と、終わりの見えない支払いが待っている。

T家(埼玉県在住)のリアル家計簿

夫42歳(会社員)、妻40歳(パート)、長男13歳、長女10歳

収入(月額・手取り)金額
夫 給与430,000円
妻 パート代100,000円
児童手当(2人分)20,000円
合計550,000円
支出(月額)金額備考
住宅ローン(管理費等込)125,000円変動金利上昇により1.5万円増
食費・日用品費95,000円食べ盛りの子どもと物価高が直撃
水道光熱費28,000円
通信費(スマホ・ネット)16,000円
教育費(塾・習い事)85,000円長男塾5万強(模試代含)、長女新体操など
車関連(ガソリン・保険)25,000円ローンは完済済み
保険料(生命保険など)32,000円夫婦と学資保険代わり
夫 小遣い40,000円昼食代込み
妻 小遣い20,000円美容院代など含む
家族の娯楽・交際費25,000円外食は月1回に制限中
雑費(被服・医療費等)30,000円コンタクト代、通院費など
積立(特別支出用など)30,000円車検、固定資産税用の取り分け
つみたて投資(NISA)34,000円以前から設定のまま変更できず
合計585,000円
月間収支(赤字)-35,000円夏期講習などの特別費は別途ボーナスから補填
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